「わからなさ」を楽しむ数学教師の挑戦。

主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)を教師も実践!公立定時制高校の教務主任です。

【授業】「主体的・対話的で深い学び」の先にあるものは?その3【学習指導要領・臨時休校でしたいこと】

前回の続き。

 

mathteacher.hatenablog.com

 

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「数学的な見方・考え方」は、

「物事の本質をとらえて、思考の方向性を定めること」だと読み解いた。

 

「数学的な見方・考え方」を働かせた先には、

「数学的に考える資質・能力」の育成がある。

 

では,「数学的に考える資質・能力」とは何か。

(1)知識及び技能,

(2)思考力,判断力,表現力等,

(3)学びに向かう力,人間性

の3つの柱に基づいて示される。それぞれを見ていく。

 

(1)知識及び技能

学習指導要領には,「数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるようにする」とある。

 

ただ,知識として「知っている」,技能として「使うことができる」だけではない。

 

問題発見・解決の過程において,

自分で試行錯誤をして主体的に用いることで身に付くものだ。

 

問題発見・解決の過程は2つある。

数学的な事象と日常生活や社会の事象。

つまり,授業では2つの場面を想定しなければならない。

 

「実社会」とつなげるばかりではいけないのだ。

数学的な場面にも大事な意味がある。

 

例として,私が行った三角比の導入の授業を見てみる。

 

【導入】 車椅子で5cmの段差を上がるためのスロープ(傾斜5度)の全長を考える。

【展開】 三角比に関する基本的な問題を考える。

【まとめ】自作問題(数学ラブレター)を解き合う。

 

この授業では,導入として日常生活や社会の事象から始まる。

展開,まとめと続くにつれ,数学的な事象を扱う。

このように1時間の授業で両方の事象を入れることも重要であり,単元全体を見据えて構成することも必要だ。

 

そうした問題発見・解決の過程でこそ,発展性のある知識及び技能となるのだ。

 

(2)思考力,判断力,表現力等

「数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力を養う」とのこと。

 

(1)の知識及び技能の「活用」が必要だ。

①見通しを持って論理的・統合的・発展的に考察(帰納,類推,演繹)すること,

②物事の特徴を捉えて数学的に表現すること

の2つが大事になるのではないか。

 

数学Ⅱの三角関数の授業を例とする。

【導入】 前時で生徒が作った問題を活用し,復習をする。

【展開】 Ⅰ.音(聴力検査)を聴き,y=sinθとy=cosθのグラフをかく。

     Ⅱ. y=1/2sinθとy=cos2θのグラフをかく。y=sinθは1000Hzの音,

       y=1/2sinθは1000Hzで大きさが半分, y=cos2θは2000Hzの音を聴いて,

       音の大小・高低を考える。
     Ⅲ. y=sinθとが表す音に比べて,

      「大きくて低い音(500Hzで大きさが半分の音)」を聴き,

       三角関数の式を自分で考えてグラフをかく。

【まとめ】自作問題(数学ラブレター)を解き合う。

 

展開Ⅲが「活用」の場面だ。

グラフをかくにあたり,「大きくて低い音」を聴く。

 

これにより,①の「見通し」が生まれる。

大きくて低い音という特徴を式で表すことで②の「数学的な表現」がなされる。

 

その際,展開Ⅱの小さい音や高い音との関係を認識して発展的に考察をしている。

考察により特徴を捉えてグラフをかくことで,再び数学的に表現をしている。

 

今回の活用の場面では,①,②が互いに作用しながら,

思考力,判断力,表現力を育成している。

 

また,帰納的,演繹的に考察することはどちらも大事である。

今回の三角関数の授業は演繹的にデザインをしている。

前述の三角比の授業は帰納的だ。

どちらの授業デザインも教師の明確な意図を持つことが必要となるだろう。

 

(3)学びに向かう力,人間性
「数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う」とのことだ。

 

「成長の過程を適宜振り返るなどして自覚することが大切」とあるように,

生徒が(1)(2)の力がついたことを実感できる場面を設定できれば,

数学のよさを認識できる。

 

また,「一人一人の考えを受け入れ,問題解決に生かしていこうとする学習集団でなければ粘り強く考え続ける態度は育ちにくい。」とある。

 

学びに向かう力は個人のものだ。

しかし,それを身に付けるには「他者」の存在が必要。

 

互いに多様な考えを認める集団でこそ,

一人一人の生徒が自分の考えを振り返ることができる。

 

そして,教師の役割も見えてくる。

「正しいか正しくないかを判断して正しくないときに切り捨てるのではなく,

どうしてそのように考えたのかを確認し,

他の意見と比較するなどして自分の考えを改善させよりよい考えに進ませる」ように

教師は支援をするのだ。

 

正解か不正解かではなく,

「どのように考えたか」を大事にできる集団を生徒とともにつくることが大事。

 

生徒は次のように言っている。

・授業の中で答え合わせをするとき,みんなそれぞれの意見や解き方を聞いて,「その解き方か~」となったりするときが楽しかった。

・今までわからなかったらすぐにあきらめることが多かったけど,自分の力でやりきろうとする気持ちが強く,解けたときがすごくうれしかった。この3年間を通して,やりきる力がついた。

・小中学校では「わからない」と先生に言わずに諦めていたけれど,高校では「わかるまで取り組もう」という前向きな気持ちで授業を受けれました。みんなが「わからない」と言うことで,一人じゃないんだと安心し.ゆっくりと問題に向き合えました。

 

このように集団の中で自分の学びを振り返ることで,学びに向かう力,人間性等は育まれるのだ。

 

続きは次回。